クリニックなどで医師が行うしわ治療にはレーザーを用いる方法や手術のほか、薬剤などを注入する方法があります。
なかでもボツリヌストキシンを用いたボツリヌス注射は、手軽に受けられる人気の高い治療方法です。食中毒の原因ともなるボツリヌス菌を用いた製剤であることから、治療に不安を覚える方も少なくありませんが、医療分野では幅広く活用されています。
ボツリヌス注射とはボツリヌス菌が産生する成分を加工したタンパク質の製剤のことです。このタンパク質には筋弛緩作用という筋肉をリラックスさせる働きがあるため、美容医療だけではなく様々な医療分野で活用されています。
美容医療の分野で積極的に使われるようになったのは1980年代後半からと言われており、2003年にはアメリカのFDAによりしわ治療薬として認められました。
ボツリヌストキシンの効果
ボツリヌス注射の成分であるボツリヌストキシンには、筋肉を動かすための神経伝達物質であるアセチルコリンの分泌を阻害する作用があります。この分泌が阻害されると筋肉を収縮させるための情報がうまく伝わらなくなります。その結果、筋肉の緊張が緩み、筋肉がリラックスした状態になります。この働きをうまく利用したのが、眉間や目尻の表情じわの治療です。
表情じわは表情筋と言う筋肉の収縮によって眉間や目尻、口の横額などに現れます。表情じわは、本来一時的なものです。
しかし繰り返し筋肉を動かし続け、加齢とともに皮膚の弾力が低下してくると、しわが消えにくくなり、いつの間にか元に戻らない”刻みじわ”へと変化していきます。
ボツリヌス注射を表情筋に注射すれば筋肉をリラックスさせることができるため、シワの改善に効果が期待できます。
しわ治療以外にも使われています
ボツリヌス注射が活用されているのはしわの治療だけではありません。
重度の腋窩多汗症等の治療にも使用されています。治療の前には医師によるカウンセリングが行われます。治療内容だけではなく、治療後の経過や副作用なども含め十分な説明を受けて納得した上で治療を受けるようにしましょう。
ボツリヌス注射について
表情筋にボツリヌス注射を使用する場合はシワのもととなっている顔の表情筋に少量の薬剤をごく細い針で注射します。基本的に麻酔は不要です。
通院や入院も必要なく、治療当日からすぐに普段通りの生活が可能です。
表情筋に対する治療効果が現れるのは一般的に注射をした2、3日後からです。個人差はありますが、通常は4~6ヶ月位効果が持続します。
ボツリヌス注射の効果は永続的なものではありません。時間が経って注入したボツリヌスがなくなると、治療の効果はだんだんと薄れてきて、少しずつもとの状態へと戻っていきます。
永続的な効果を期待する場合には、定期的に治療を受けるようにしましょう。
注意点
効果が強すぎると筋肉が必要以上にリラックスした状態になるため、眉毛が下がったり瞼が重くなったりすることがあります。
ただしそのような場合でも個人差はあるものの、半月から1ヵ月程度で、薬剤の効果が弱まるとともに症状が弱化されると考えられます。
その一方で、治療効果の実感が得られない場合や、しわへの効果が弱いこともあります。これはボツリヌストキシンに対する筋肉の反応に個人差があるためです。
なおボツリヌス注射は妊娠中、授乳中の女性に使用することはできません。また妊娠する可能性のある女性は、治療中だけではなく、治療終了後から2回目の月経を経るまで避妊が求められます。男性がボツリヌス注射を受ける場合は3ヶ月の避妊が必要とされます。
その他注射後にかゆみや赤み、浮腫等が生じた場合、多くは一過性ですが、症状が続く場合は再受診して適切な治療を受けてください。
またごく稀ですが、アレルギー症状が起こる可能性も否定できません。アレルギーが生じた場合は次回以降の治療ができないため、気になる症状がある場合は必ず医師にご相談ください。